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大阪高等裁判所 昭和51年(行コ)16号 判決 1977年10月28日

控訴人 住吉税務署長

訴訟代理人 細井淳久 山中忠男 ほか四名

被控訴人 川北新吾

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事  実<省略>

理由

当裁判所も原審と同様、被控訴人の本訴請求は正当として認容すべきものと判断する。その理由は次のように付加訂正するほか原判決に説示のとおりであるから、これを引用する。

一、原判決一一枚目表七行目から同裏一一行目までを

「そしてまた、<証拠省略>によれば、被控訴人の経営する店舗と前記同業者三名の経営する店舗とはその面積、従事員数の点においてほぼ類似することが認められるが、<証拠省略>によれば、被控訴人の経営する店舗は大阪市住吉区の加賀屋商店街にあり、また前記同業者三名のうち米田勝の経営する店舗は同区の粉浜商店街に、堀五四男、山口芳太郎の経営する店舗はいずれも同市西成区の鶴見橋商店街にあるが、昭和三九年当時においては、被控訴人の経営する店舗は、右同業者三名のそれに比し立地条件が悪く、そのため訪れる客数も少なかつたのみならず、被控訴人は十分な実積を有する右同業者三名に比し紳士既製服小売商としての経験に乏しかつたことが認められ、<証拠省略>中右認定に反する部分は信用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

叙上認定の事実よりすれば、被控訴人が紳士既製服小売商としての経験に乏しく、まだ在庫品のため込が十分でなかつた本件年度においては、仕入れた商品をそのまま全部売却したとすることはできないし、また被控訴人は経験不足、顧客不足から、売上げを伸ばそうとしてとかく安売りを強いられる状況にあり、すでに十分な経験を有していた右同業者らと同等の利益をあげることは不可能であつたと推認するのが相当であるから、被控訴人の仕入金額をもつて、直ちにその売上原価としこれを基礎として、前記同業者三名の例により、被控訴人の総収入金額を推計するのは相当でなく、合理性を有しないものといわねばならない。」

と訂正する。

二、次に控訴人は、被控訴人の本件年度の仕入高に、期首在庫高を加え、これより期末在庫高を減じた残額を売却原価とし、これを基礎にして被控訴人と同種の事業を営む前記同業者の例により、被控訴人の総収入金額を推計するので、この点について検討する。

1  まず、控訴人は昭和三七年中頃から洋品雑貨の小売業を、また昭和三八年六月から紳士既製服の小売業をはじめたが、秋、冬物は春、夏物より高価であるから、昭和三七年期首の商品在庫高は少くとも期末在庫高の半額を下ることはないと推定すべきであると主張し、被控訴人がもともと加賀屋商店街においてブリキ加工業を経営していたこと、そして昭和三七年夏頃から衣料雑貨の小売業を兼業するようになり、次いで昭和三八年にはブリキ加工業を廃業して紳士既製服の小売商に転業したことは原審認定のとおりであり、また一般的に秋、冬物が春、夏物より高価であることは公知の事実であるが、<証拠省略>によれば、本件年度の期首においては、被控訴人の紳士既製服小売業を開業してよりようやく半年を経過したばかりで、毎年七月から一二月までに仕入れる秋、冬物紳士服についてはともかく、毎年一月から六月までに仕入れる春、夏物紳士服については、全く在庫品のない状態から順次仕入れていこうとする段階にあつたものであり、本件年度においては四季を通じ、ブリキ加工業により得た資本により、売上げの有無にかゝわらず、問屋から勧められるまゝ、相当多量の仕入れを行つたことが認められるから、控訴人が昭和三九年期首の在庫高は同年期末のそれの半額を下ることはないと推定したのは相当とはいい得ない。

2  また控訴人は、被控訴人の昭和四一年五月一一日現在の商品在庫高は一三九万〇、八〇〇円であつたから、取扱商品価格の上昇度を考慮すれば、昭和三九年期末の商品在庫高は多くとも一四〇万円を超えることはないと推定すべきであると主張し、<証拠省略>によれば、被控訴人の昭和四一年五月一一日現在の商品在庫高は一三九万〇、八〇〇円程度であつたことが窺われ、また一般に昭和三九年当時の取扱商品価格より昭和四一年当時のそれが高騰していたことは公知の事実であるが、原審が認定した、開業後間がなく、いまだに経営の安定期に達していなかつた被控訴人の特殊事情(とくに本件年度においては、売上の有無にかかわらず多量の仕入を必要としたという事情)を考慮することなしに、昭和四一年五月一一日現在の前記在庫高から昭和三九年期末の在庫高は多くとも一四〇万円を超えることはないと推定するのは相当でなく合理性があるとはいえない(なお、本件年度中の仕入高が九九四万四、二二五円であつたことは原審認定のとおりである。)から、控訴人の右主張にもにわかは左袒できない。

そうだとすると、被控訴人の推計方法も合理性を有するものとはいえないし、また被控訴人の右特殊事情をどの程度考慮するのが相当であるかについては、本件全証拠を検討しても適切な資料を見出すことはできないから、被控訴人の売上原価を確定することはできず、売上原価が確定しない以上、被控訴人の総収入金額を算出することもできないから、結局、被控訴人の確定申告にかかる総所得金額四〇万五、〇〇〇円を超える所得の存在を認めることはできず、本件更正および決定は違法であるといわざるを得ない。

三、よつて本件更正および決定の取消しを求める被控訴人の本訴請求を認容した原判決は正当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担について行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、第九五条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小林定人 鍬守正一 石田真)

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